ノート

本稿は Claude の支援を受けて執筆した。

xue の地点パネルでは、モデルの 2 m 気温の横に「TMP 2M · DEM」という行があり、モデル格子点の 2 m 気温を地点の DEM 高度に換算している。元の計算式は次のとおり。

1
T = T2m + 0.0065 K/m × (モデル格子点の地形高度 − DEM 高度)

0.0065 K/m、すなわち 6.5 K/km は国際標準大気における対流圏の平均気温減率である。

2026-10-05 に地点を富士山頂に置き、山頂の AMeDAS 観測(3775 m)と比べたところ、GFS 0.25°、GFS sflux、ECMWF IFS 0.25° の補正値はいずれも実測より約 5 °C 低く、当日の各時刻で差はほぼ同じだった。

これが富士山だけのバイアスなのか、補正方法そのもののバイアスなのかを確かめるため、四季それぞれ 1 週間分の過去の予報を取り、世界の約 3000 地点で同じ比較を行い、いくつかの代替手法も試した。最終的に xue のこの行は、モデルの等圧面気温を使い、地表付近の偏差を高さとともに減衰させる方式に変更し、すでに公開している。以下はその過程の記録である。

以下、Δz = 地点の標高 − モデル格子点の地形高度 とする。


富士山の事例

2026-10-05 の GFS 06Z、sflux 06Z、ECMWF 00Z 予報で、富士山頂に最も近い格子点のモデル地形高度はそれぞれ 643 m、976 m、754 m で、周囲の格子点でも最高 1100–1240 m だった。0.25° 格子(約 25 km × 28 km)の地形高度は格子内の平均を平滑化した値である。富士山の裾野の直径は約 40 km あり、山頂付近の高さは格子上に存在しない。そのため補正は 600–1000 m から約 3 km 上方へ外挿することになり、補正量は −18 〜 −20 K になる。

補正値から実測を引いた差は、GFS が −6.1 ± 0.3 K(9 時刻)、sflux が −6.0 ± 0.4 K、ECMWF が −4.6 ± 0.5 K(5 時刻)だった。

2026-10-05 09Z の富士山上空の気温プロファイル

2026-10-05 09Z の富士山上空の気温プロファイル

図の実線はモデルの等圧面気温、ひし形は各モデルの格子点地形高度での T2m、点線は T2m から 6.5 K/km で 3775 m まで外挿した値、星印は山頂の実測である。3775 m で等圧面プロファイルと実測の差は 1 K 未満だが、6.5 K/km の外挿は同じ高さで約 6 K 低い。

バイアスを三つの項に分けると次のようになる(時刻平均)。

項目GFSECMWF
T2m と格子点地形高度に内挿した等圧面気温の差−1.3 K+1.4 K
6.5 K/km とモデル気柱の実際の減率の差 × Δz−5.9 K−5.5 K
3775 m に内挿した等圧面気温と実測の差+1.0 K−0.5 K
合計−6.1 K−4.6 K

当日、格子点地形高度から 3775 m までのモデル気柱の減率は 4.6–4.7 K/km だった。周辺の AMeDAS 山麓 15 地点(平均標高 319 m)と山頂の実測から求めた減率は、24 時間で 4.0–5.0 K/km、平均 4.45 K/km だった。山頂の相対湿度は大半の時刻で 98–100 % だった。湿潤断熱減率は 930 hPa・20 °C で約 4.1 K/km、650 hPa・5 °C で約 5.0 K/km である。

当日のバイアスが安定していたのは、Δz が格子で決まり、同じ気団の中では減率の日変化が約 ±0.5 K/km にとどまったためである。後述の四季のデータでは、富士山のバイアスの符号は季節によって変わる。


データと手法

単日の検証は予報 1 回分しかないため、過去の予報と観測を追加した。

項目内容
期間2024-10-08..14、2025-01-08..14、2025-04-09..15、2025-07-09..15、3 時間ごとの有効時刻、計 224
予報GFS 0.25° と ECMWF IFS オープンデータ 0.25°。直近の 00Z/12Z 初期時刻の 0、3、6、9 h 予報。AWS 上の GRIB2 アーカイブから .idx / .index でバイト範囲を読み出した
予報要素2 m 気温、地形高度、1000/925/850/700/600/500 hPa の気温とジオポテンシャル高度
観測NOAA ISD(SYNOP と METAR)、欠測は GHCNh と IEM で補完。有効時刻 ±30 分以内で最も近い報告
地点|Δz| ≥ 200 m の稼働中の全地点(1624)と、無作為に選んだ平地の対照 1500 地点
除外標高または座標が Mapterhorn DEM と 600 m 以上異なる地点、座標が重複する地点、計 55
サンプル数2968 地点、予報と観測の組で約 57 万

ISD の地点表は 2025-08 で止まっており、NCEI がこのデータを GHCNh へ移行中であるため、期間は 2024-10 から 2025-07 とした。ECMWF オープンデータは 2024-10 に地表ジオポテンシャルを公開していなかったため、この週は 2025-01 の地形場を使った。残り 3 週の地形場は互いに完全に一致する。

比較した補正手法:

記号名称方法
M0補正なし最近傍格子点の T2m をそのまま使う
M16.5 K/kmT2m − 6.5 K/km × Δz。xue の元の方式
M1b5.5 K/kmM1 と同じで減率 5.5 K/km(ECMWF が 2024 年の同化更新で採用した値)
M8双線形 + 6.5 K/kmM1 と同じで、T2m と地形を周囲 4 格子点から双線形内挿
M2等圧面内挿等圧面気温をジオポテンシャル高度で地点標高へ線形内挿。T2m は使わない
M7RTMA 方式Δz > 0 のときモデル気柱の減率で外挿し、T2m を上限とする
M5減衰ブレンドΔz > 0 のとき等圧面内挿気温に、Δz とともに指数関数的に減衰する地表付近の偏差を加える。Δz ≤ 0 は M1 と同じ
M9双線形 + 減衰ブレンドM8 の双線形内挿に M5 を組み合わせ、減衰高度 H = 800 m。xue の現行方式

M5 と M9 の式:

1
T = T_free(z_地点) + exp(−Δz / H) × [T2m − T_free(z_格子点地形)]

T_free(z) はモデルの等圧面気温を高さ z に線形内挿した値である。Δz が 0 に近いと結果は T2m に近づき、Δz が H より十分大きいと純粋な等圧面内挿に近づく。H は 1 週除外の交差検証で選んだ。3 週で H を選び、残りの 1 週に適用する。

本文の数値は特に断らない限り GFS のものである。ECMWF も傾向は同じで、差が目立つところだけ別に記す。


Δz による誤差の変化

Δz の区間ごとの平均絶対誤差

Δz の区間ごとの平均絶対誤差

GFS の Δz 区間ごとの平均絶対誤差(K):

Δz (m)地点数M1 6.5 K/kmM2 等圧面内挿M9 双線形 + 減衰ブレンド
< −1000682.792.882.62
−1000…−6001292.552.602.44
−600…−3004722.322.432.20
−300…−1505812.162.352.09
±15014091.671.861.61
150…3001082.001.711.60
300…6001172.321.811.65
600…1000592.401.551.33
1000…1500232.891.591.42

M0(補正なし)の誤差は、Δz が 1000–1500 m で 6.5 K、−1000 m 未満で 8.0 K である。

|Δz| ≤ 150 m では M2 以外の手法の差は 0.1 K 以内で、誤差は主に予報そのものに由来する。Δz が 150–300 m では M9 は M1 より 0.4 K 低い。Δz > 300 m の 201 地点では、M1 の平均絶対誤差は 2.42 K、M9 は 1.53 K で、平均バイアスは −1.30 K から −0.21 K になる。全地点では M1 が 1.99 K、M9 が 1.85 K である。ECMWF では、Δz > 300 m の 189 地点で 2.40 K から 1.58 K に、全地点で 1.72 K から 1.58 K に下がる。

M2(等圧面内挿)は |Δz| ≤ 150 m で M1 より 0.2 K 悪く、ECMWF では 0.8 K 悪い。Δz < 0 では ECMWF で 0.9–1.0 K 悪い。モデル地表面より下の等圧面気温は外挿値であり、TopoSCALE の論文にも同じ説明がある。


地点がモデル地形より高い場合の昼夜差

Δz > 300 m の地点の季節・昼夜別平均バイアス

Δz > 300 m の地点の季節・昼夜別平均バイアス

Δz > 300 m の地点を地方太陽時で昼(09–17 時)と夜(21–05 時)に分けた GFS の平均バイアス(K):

季節M1 昼M1 夜M5 昼M5 夜
2024-10+0.05−2.39−0.54+0.09
2025-01−0.69−2.81−0.30+0.19
2025-04+0.22−2.57−0.92−0.12
2025-07+0.71−2.49−0.52−0.32

M1(6.5 K/km)は四季とも夜に低く、両モデル合わせて 2.1–2.9 K、昼のバイアスは ±1 K 以内である。M5(減衰ブレンド)は昼夜とも ±1 K 以内である。M2(等圧面内挿)の夜のバイアスは符号が逆で +0.8 〜 +1.7 K。M7(RTMA 方式)は夜に 0.8–2.2 K 低いままである。

実効減率

実効減率

図の実効減率は (T2m − 実測) / Δz と定義する。M1 のバイアスをゼロにするのに必要な減率である。Δz が 300–1500 m の地点では、昼の中央値が 6.3–7.4 K/km、夜が 1.5–4.1 K/km で、Δz が小さいほど夜の値は低い。Δz < −300 m の地点では昼夜とも 6.4–7.8 K/km の範囲にある。

Δz > 300 m の地点の夜間バイアスと雲量

Δz > 300 m の地点の夜間バイアスと雲量

観測雲量で分けると、Δz > 300 m の地点の夜間 M1 バイアスは 0–2 オクタで −3.32 K、3–5 オクタで −2.26 K、6–8 オクタで −1.70 K である。同じ 3 群での M5 のバイアスは −0.71、+0.08、+0.08 K である。観測風速で 0–2、2–5、5–10、> 10 m/s の 4 群に分けると、M1 のバイアスは順に −2.2、−2.9、−2.7、−2.2 K で、風速との単調な関係はない。

これらの結果は次の過程と整合する。モデル格子点地形上の T2m には、地表付近の層が昼に加熱され、夜に放射逆転層を形成する信号が含まれる。固定減率による外挿はこの信号を、モデル地表面より数百 m 以上高く、地表付近の層より上にある地点へ持ち込む。晴天の夜にバイアスが最大になることは、放射逆転層の強さと対応する。この機構は境界層の観測では直接検証していない。


減衰高度

減衰高度 H と RMSE

減衰高度 H と RMSE

1 週除外の交差検証で選ばれた H は、GFS が 4 週それぞれ 1000、1000、1000、1500 m、ECMWF が 600、600、800、600 m だった。全サンプルの RMSE は H に対して緩やかにしか変わらない。GFS は 800–1500 m で 2.21–2.22 K、ECMWF は 600–800 m で 2.40 K である。H = 800 m では、両モデルともそれぞれの最適値との差が 0.01 K 以内に収まる。昼夜で別の H を使っても、RMSE の改善は 0.05 K 以下である。


山頂と自由大気の気温差

代表的な山頂地点の平均絶対誤差(ECMWF)

代表的な山頂地点の平均絶対誤差(ECMWF)

富士山、Jungfraujoch、Säntis、Sonnblick、Kredarica、Mount Washington、黄山、華山、Piz Corvatsch の 9 山頂地点では、2025-01 の週の M9 の平均バイアスが +1.6 K で、他の 3 週は 0.0 〜 +0.4 K だった。この誤差がモデルの自由大気によるものか山頂地点そのものによるものかを区別するため、IGRA2 のラジオゾンデ観測を山頂の標高に内挿し、山頂の実測およびモデルの等圧面内挿気温と比べた。

山頂地点ゾンデ地点実測 − ゾンデ、全期間実測 − ゾンデ、2025-01
Mount WashingtonGray, ME−3.09 °C−5.42 °C
SäntisPayerne−1.67 °C−3.42 °C
富士山館野−1.43 °C−1.83 °C
黄山安慶−1.30 °C−2.13 °C
KredaricaLjubljana(06Z)−0.87 °C−3.12 °C
泰山済南章丘−0.37 °C−0.48 °C
Mauna LoaHilo+0.34 °C+0.04 °C

ゾンデ地点でモデル気柱を取ると、GFS と ECMWF とゾンデの差はどの季節も ±0.3 °C 以内で、最大は 2025-01 の Payerne の −0.7 °C だった。山頂地点は冬に同じ高さの自由大気より 2–5 °C 低く、夏の差は 0 〜 −1 °C である。富士山と館野は離れており、冬には両地点の間に水平気温傾度がある。富士山の格子点のモデル自由大気と比べると、2025-01 の富士山の実測は約 4.3 °C 低い。Mauna Loa は 00Z(現地 14 時)に自由大気より 3.3 °C 高く、12Z(現地 2 時)に 2.65 °C 低い。

この差の原因(積雪面の放射冷却、山を越える気流の断熱冷却など)は今回のデータでは切り分けていない。Sheridan ら(2018)の要旨には、山頂の気温は平地より高く、同じ高さの自由大気より低いとあり、ここでの観測と同じ向きである。

富士山の四季の M1 バイアス(ECMWF)は、2025-01 が昼 +3.5 K・夜 −0.5 K、2025-04 が昼 +1.2 K・夜 −1.8 K、2025-07 が昼 −5.8 K・夜 −5.0 K である。2024-10 の週は ISD にも GHCNh にも富士山の観測がない。冒頭の約 −5 °C のバイアスは暖かく湿った季節にだけ現れる。


谷

Δz < −300 m の地点では、M1 の 4 週の平均バイアスは −0.9 〜 +0.9 K の範囲にある。一定減率を 4.5、5.0、5.5、6.0、6.5 K/km とすると、ECMWF の平均絶対誤差は順に 2.62、2.49、2.39、2.31、2.26 K で、6.5 K/km が最小である。M1b(5.5 K/km)は Δz > 300 m の地点では M1 より 0.14–0.16 K 良く、谷では 0.08–0.13 K 悪い。

M2 とモデル気柱の減率はどちらも谷で M1 より悪い。M8 の双線形内挿は谷の平均絶対誤差を 0.06–0.25 K 下げ、Δz が負に大きいほど下げ幅が大きい。0.25° 格子は谷の冷気湖を解像しない。REDCAPP や Lundquist ら(2008)のように谷を改善する手法はいずれも DEM の地形指数を使っており、今回は試していない。


xue での実装

xue は現在 M9 を使っている。

  • 地点がモデル地表面より高いときは減衰ブレンドを使う。自由大気の気温は、その初期時刻で公開されている 1000–500 hPa の気温とジオポテンシャル高度から、地点の DEM 高度へ内挿して求める。そこにモデル地表面での T2m と自由大気気温の差に exp(−Δz / 800 m) を掛けたものを加える。
  • 地点がモデル地表面より低いときは、引き続き 6.5 K/km を使う。

T2m とモデル地形は地点周囲の 4 格子点から双線形内挿し、地図のシェーダーのフィルタリングと揃えている。等圧面の気柱は検証時と同じく最近傍格子点のものを使う。ある初期時刻で等圧面データが 2 層未満の場合は 6.5 K/km に戻す。

地形表示をオンにすると、地図は表示範囲内の各ピクセルに同じ補正をかけ、地点パネルの「TMP 2M · DEM」行も同じ式を使う。冬の露出した山頂は同じ高さの自由大気より低温で、このバイアスはこの方法では取り除けず、そうした地点では補正値がまだ高めになる。


既存手法との関係

M5 は REDCAPP と同じ構造で、地点の高さでの自由大気気温に、モデル地表面から持ち上げた地表付近の偏差を加える。REDCAPP は重みを DEM の地形指数から当てはめるが、ここでの重みは Δz だけで決まる。M2 は TopoSCALE の方式である。Gao ら(2012)は約 1500 m より上で外挿の起点を T850 に切り替えており、1500 m で重みを 1 から 0 に切り替えたものに相当する。CHELSA-W5E5 と ERA5-Land(Dutra ら、2020)はモデル気柱の日別減率を使う。M7 は RTMA の方式である。RTMA の格子は 5 km で、地点とモデル地表面の高度差は一般に数十〜数百 m であり、地点の多くは地表付近の逆転層の中にある。ここでの Δz > 300 m の地点の多くは逆転層より上にあり、これが 0.25° 格子で M7 が夜に低いままである理由かもしれないが、検証していない。Met Office IMPROVER は近傍で T2m をモデル地形に回帰して減率を求める方式で、今回は試していない。

見つかった文献のうち、REDCAPP、TopoSCALE、CHELSA の検証は再解析の日別値、Sheridan らの検証は Met Office UM 4 km モデルに基づく。0.25° の GFS と IFS を Δz 別・毎時で検証した研究は見つからなかった。


データの問題

  • AWC の地点ファイル stations.cache.json と metars.cache.csv では、米国の小規模空港約 20 か所の標高がフィート値になっている。例えば KO26 Lone Pine は 3680(実際は 1122 m)、KC24 Creede は 8680(実際は約 2646 m)。xue の空港プロダクトはこのフィールドをそのまま使っていた。
  • ISD の地点表では、北海の複数の海上プラットフォームの標高が 470 m になっている。Herbert Island、Inguincho、Lahsh、Gupis、Jorhat、Mestia などは標高または座標が DEM と 600 m 以上異なる。Snezka 11653 と Sniezka 12510 など 13 組の地点は座標が同じである。
  • ISD の山頂地点の多くは座標の精度が約 0.01° で、換算すると斜面上に落ちて DEM と 200–400 m 異なることがある。
  • フランスの高山地点では、センサーが地上約 7 m にあることが多い(Préaux ら、2025)。今回使った中国と日本の山頂地点のセンサー高度は確認していない。

データ出典

  • NOAA GFS、NOAA ISD / GHCNh、AWC METAR、IGRA2:米国のパブリックドメインデータ。
  • ECMWF オープンデータ:Copyright © ECMWF、CC BY 4.0。文中ではデータを内挿・統計処理した。
  • AMeDAS:出典:気象庁ホームページ(PDL 1.0)。文中で統計処理を加えた。
  • IEM ASOS アーカイブ:Iowa Environmental Mesonet。
  • Mapterhorn DEM:© Mapterhorn。
  • 予報データは AWS の noaa-gfs-bdp-pds と ecmwf-forecasts バケットから 2026-10-06 に読み出した。